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    あ、送り忘れてた

     とす、どすどすんばさりどん、と紙袋の底が公園の土を擦った。
     こういった挙動でもう驚けない人種ばかりになってしまっているから自宅の前にある空間は本当に便利だ。
     この声と向かい合う声が少々大きくなろうと、またやっているのね、微笑ましいわぁ、で済まされる。そういう言葉を厭うように眼前のものはできていないし、この己もそういった贅沢はおぼえない。
     実に、遠慮のない場所である。



    【ディナーVコース】



    「あ、いやうん、その――すみませんでした!」
     慣れているのか、滑らかな動作で膝を折って三指をつく。ジーンズだから土で汚れたって別にいいと思っているのだろう、いささかの惑いもない美しい所作だった。
     明るい色の髪や細い革紐と銀の連なりが落ちて、地面を引っかいていた。
    「今日はバレンタインだったのか……そうか、それなら誘った日が悪かった訳だ」
     道理でずっと甘ったるい何かにつけ回されている気がしたのだ。ここ最近の体調が優れないのにも納得できた。だから気鬱を晴らそうと「今日」を選んだ福王寺がいけない。
     すっかりペンキが剥げたベンチの背もたれに体重をかけた。聖がこの日付にする行動は去年も五年前もその前も、変わらず同じだったではないか。
    「ほんとすみませんでした」
     だが、意外な気もしていた。常なら数刻置かず返信してくる聖が、六時間強も気づかなかったのだ。
     着信を彼の携帯に残してやったのは今朝の九時過ぎだったが、長くなってきた陽も傾いてしまっている。携帯を見たか? と尋ねたときの、何かオレやらかしたという音声は実に楽しませてくれた。
    「香澄先輩といたのか」
    「そのとーりです。啓ちゃんと秀太もおりました」
     どこにいたのか聞かないでいてやろう。
    「王子、王子」
     ふと気がつけば地に近かった聖の額が頭上にある。こいつ、いつの間に立ち上がったんだ?
    「心配させてごめんね、王子」
    「否、していない」
    「ごめんね。ああ、袋も下に置いちゃったよ、ごめんね! はい、美術科有志から。残りの袋はは雑多。にーろちゃんに啓ちゃん、高久先輩と喜一先輩からも」
     いくつかの紙袋の底を払い、福王寺の隣に座らせてしまう。今日は珍しく彼以外の誰かと会わずに済んだというのに。
    「突っ返していいか?」
    「ダメですー。ダメにきまってんですー」
     食べろ甘味一年分。高らかに笑い、彼は福王寺に渡さなかった紙袋からタブレット型の製菓用クーベルチュールの袋を取り出した。ビニールを破って指を突っこみ、人指し指と中指で挟んだ一枚を口のなかに放りいれる。
    「美味しいねぇ」
    「だろうな」
    「そっちの袋も負けずに美味しいはずだよね」
     微笑みをたたえて咀嚼している。そうするうちに喉仏が上下した。ほんの数年前まではこうもくっきりと見えなかったそれから首の筋を目で辿る。
    「……おーじ。王子」
    「何か?」
    「さっきのてがみのごようじなあに?」
    「……忘れた。朝の気まぐれなんてスキップしてどっかにいく時間だろう」
    「そうかもね。でも冷えていたら足が動かないかもしれない。それなら、どこかにだって行けないかも解らないね。王子、予定はないね?」
     二三枚減らした袋をしまい、代わりに折り畳みの携帯電話を開いた。
     カチカチ、カチと番号を呼びだした。

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