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    夢に見た光景

     12/31日の朝目覚めてもってきた記憶。



     ある建築家が妻を迎えたのを機に自宅を建てた。
     壁はクリーム色、二階建てで庭付きで、直径十センチほどの木を二本渡した柵で隣家との区切りをつくっている。明るい黄緑の葉を揺らす庭木がたくさん植わっていた。赤い煉瓦でこしらえた花壇にマーガレットやらノースボールやらが植えられている。
     内装は白を基調にしている。表面が少し粒だっていて、塗った壁のように見える壁紙、キッチンボードも乳白色。
     リビングにはふかふかしたカーペットが敷かれていて、クッションと座布団と、ローテーブルが乗っている。ローテーブルは奥さんの領域。小学校高学年の行動派のおにいさんと、彼よりは温和しい、二歳下の弟が一緒に座っている。弟氏の連絡帳と兄の漢字ドリル、赤い油性ボールペン、毛糸玉と編み棒。
     兄がクルクル回している懐かしさを覚えるデザインの鉛筆。ついている消しゴム部分はすっかりなくなってしまっている。真ん中はくぼんでいて、折れた鉛筆心が深く刺さっている。
     建築家は最近帰っていないらしい。なくなったのだろうと思う。
     奥さんはテレビのスイッチを入れた。いつものように光が通っているのを見て微笑んでいる。
     夫は虹が好きだったのだ。とにかく七つという色を好んでいたのだった。だから彼女は毎日きっかり、夫が仕掛けた親指の爪ほどの小さな七つ色を部屋に落とす。
     兄氏は宿題を終えて庭に出た。弟氏はそのまま母と一緒にテレビを見ている。CMの間は脇に置いた本を手にとって黙読する。奥さんは編み物をしながら、そうねぇ、なるほどねぇ、とテレビの出来事に相づちを打っている。

     客が来た。
     夫がいなくなってからたびたびこのふたりが来るようになった。
     ひとりはがっしりした体つきで、奥さんの兄の友人である。肩書きは捜査官らしいが、どの機関に属しているのか奥さんは知らない。もうひとりはその上司のようである。捜査官よりは動きが鈍そうな体型をしている。二人は革靴を履いてくることが多かったが、たまに「少しかしこまったような気のするスニーカー」で玄関マットを踏むことがある。今日は例外の方だったようだ。
     車を敷地内のスペースに止めて、そのカギを片手にインターホンを押す。インターホンに出ると、大概上司声がする。
     奥さんは毎度のように長いスカートにつかまっている弟氏と一緒に玄関に出て、二人を招き入れる。
     玄関にはたてつけた下駄箱がある。奥さんの腰の高さより少しだけ高い。兄氏が頭をぶつけたくぼみがある。玄関向かって上がり框の右の壁に、奥行き二十センチほどのかまぼこ形の穴がある。夫がいたときから何かを置いたことはなく、かまぼこ板の真ん中に円と四角が書いているのを毎日みがいていた。
     ふたりの客はその無駄な――カギ置き場でもないし、花瓶があるわけでもない――スペースに目を走らせるが、特にその場では何も言わない。
     弟氏はふたりだと解るとスカートから手をはなしてキッチンに行き、客用湯飲みと急須を出した。電気ポットはまだ触ってはいけないと奥さんに言い含められているから、弟氏の仕事はここまでである。
     このふたりが来るとき、いつもこうなる。兄氏は大抵外で遊んでいて、弟が兄について遊ばないときに限ってくるのだから、何か示し合わせているのかしら、と奥さんは思って、いつも小さな笑みをこぼす。

     毎回のことを話すのである。
     夫がいなくなって不自由はないか。ふたりの息子は元気か。この先は大丈夫か――。そうして、ふと捜査官が顔をあげた。そういえば、とすっかり冷めたお茶を奥さんが淹れ替えようとするのを制しながら、
    「あいつが自宅に隠しているものの噂、とやらがそこかしこでささやかれているらしいんですよ。ええ、秘密の宝だとか、本人が酒につぶれたときに――睨まないで、聞きかじった話です。俺が飲ませたんじゃありませんて。もちろん、それは奥さんです、とか、俺の宝はふたりの息子、だとかではないとね」
     そんなことを言う。奥さんは目をしばたいて、
    「ここに住んでいるものではなく……?」
     ぐるりと見渡してそれでも思いつかず、視線をテレビに投げた。
    「ほら、ここはあいつが設計したでしょう。このテレビだってそうだ、妙な改造をしてくれて」
     捜査官はテレビの側面にある小さな光る穴を見た。視線を近くの壁に向けると、虹が白い壁に映し出されている。具合よくさした影と、七色の偏光。夫が家の至るところに仕込んだ三稜鏡の仕業だった。


    (つうわけで、何か謎解き的なことをするらしい大人組。遊んでいながらちゃっかり話聞いている兄弟。
     階段だとか二階だとか寝室にも仕掛けがあり、壁から秘密の引き出しが出て来たりとかした。
     とりあえず宝は実在する。
     夫はその詳細を奥さんに話していない。
     子ども達も聞いたことはない。
     玄関の仕掛けが宝のカギの鍵である。)


     家の裏は崖のようになっていて、すぐ下にマンションの屋上がある。兄弟はよくそこで遊んでいて、リビングで首を傾げる大人を尻目に貯水槽に寄りかかって話をしていた。兄はゴム製のボールを足でもてあそんでいる。弟は枯れて変な匂いのする草を引き抜いて遊んでいる。
     はた、と気づいた兄が弟を引きつれて玄関へ走る。奥さんがいつもしている仕掛けの操作に一つ、二つ、動作を加えて鍵っぽいもの取得。大人に邪魔されないよう、確かめに行こうと走り出して。



     ……白沢さんちの目覚ましが鳴る。


     誰かこのあとのオチと宝物の正体を考えてくださ、い……。そんな失意の年末。

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