「浅間せーんぱーい」
数字ってそんなに楽しーんでーすかー?
間の抜けきった後輩の呼びかけは随分遠い。
図書館棟の一階にいはするが、こちらは室内。
あちらは室外、グラウンドのフェンスの向こう。
こちらの手元など見えているはずもないが、少年はぶんぶんと手を振って見事にこちらの状況を言い当てる。
シャーペンで細かいマスの中を埋めている。9×9の正方形に可能性と非可能性を解いて書きこんでいた。
確実に勝てる。
負けがあり得ないからこそのゲームであり、ドリルである。
……勝ちが解っていて、それでも挑むことのどこが楽しいのか、と後輩は言う。
「あっさませんぱーい」
勝てるという予測が現実になるまでの過程が面白い。そう言っても、解してくれるだろうか。
優劣はついても勝敗が、真実の意味ではつかない世界にいる者に。
ずらりと並んだ一桁の数字を手中に収め、浅間悠人は席を立った。
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