【それで、君は僕を選ぶんだ】
「ねえ、啓。おまえだったら何がしたい?」
神崎は、鳴海の部屋で問いを聞き。
僕はその傍らに――否。その背にもたれて言葉を待つ。
鳴海は僕らが腰掛けているというより体重預けているというか転がっている――どう表現するにしても中途半端だ、ソファの背の方から僕らを抱える。かすかに掠れた音が、耳たぶにあたった。
「なにをしたい?」
答える義務はない、と一蹴するかと思えば、神崎は珍しく近づいた顔を押しのけもしないで考えていた。
「何、か……」
「そう、いま、ここで、なにをしたい?」
「何、というのは不親切だな。条件は」
「オレと朝香と啓で……ねぇ、何がしたい? いや、どちらといたいかでもいいよ?」
「何の話だ」
神崎はふっ、と息を吐いた。心なしか表情がほころんでいる。体ごと向きを変えて、神崎は僕の顔を見た。
彼の瞳は闇ではない。
彼の有り様は光ではない。
それでも燦然としていることに変わりなく、時折僕は目をそらしたくなる。同じ頻度で離れがたく思う。それよりもっと多くの機会と時で、傍にいる。
「朝香」
神崎は僕を呼んで、さらりと髪に手を差し入れた。頬骨がくすぐったい。
「え、朝香ちゃん選ぶの」
「二択ならそうする」
迷いなく。
それでいながら二択の末の決断だということを苦々しく。
「三択以上なんだけど」
「どちら、と。何、か」
「それでいながら、ふたりを取り出して問うからには三人目以降の存在も暗喩する、違うかな」
彼らは、常に二択をしない。
可能性を読む。
生きてるその時をして学ぶ。
「それで、答えは」
「何、についての解答も提示をしろ。そうだな、三人でということを考えてもいい」
いいな、と僕の髪を梳いて丁寧に流す。もたれていたのは僕なのに。それで髪が絡まったのも僕の勝手なのに。
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