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    声の限りに泣き叫んで

     無駄に小話。


    【だとしてももうきみはかえらない】

    「ねえ、みや。君と僕が出逢える確率ってどれくらいかな」
     唐突に、終わりを感じて問いかけた。
    「はぁ?」
    「君と僕が瑚界で出逢える確率、さ」
     それほど夢想家ではない。夢想家であろうという気もない。理想を掲げ願いを口にしても、彼は誰よりも現実がどうあるのかを知っていた。
     知るしかなかった。その有り様からして。
    「……何、正気?」
    「君は死んで、ここに来た。讃界に籍を書き換えて、君を信奉する人が多数派から引きずり下ろされない限りここにいる……。だけど、僕は」
     それは約束された物語。
     約束された幻想。
    「さっきから、何。死亡時期が違うでしょ。それに、あたしはとっくに死んでいる。だから、出逢うことももうできないわ」
    「……僕は、できるよ」
     常磐木は呟いた。西瓜をしゃくりと噛んで含み、そのまま彼女の視線を無視する。
     彼は、まだ、死んでいない。死の先と生の前を司る竜はまだ死んでいなかった。死んでいないからこそこの場にいる、とも言える。
     常磐木は現実を知っている。現実になることを知っている。それが実際に起こるからこそ彼がここにあるのだと知っている。
    「……で? 何が言いたいのよ」
    「僕の生きている時代に転生まれておいで、ということさ。みや」
     その可能性がないわけでもない。
     けれどきっと、それはもう彼女ではないだろうが。
    「僕の任期が、じき切れる。僕は言い伝えから現実になりに行く――そろそろお別れだ、鍛冶師」
    「任期が切れて、転生する、の」
    「いいや……」





    …………………………

     いいや。
    「僕はまだ生まれてもいないから」
     生まれてないが故に幻想。
     生まれてないが故に伝承。
    「……西の帝皇になりに行く。東は今、結末を迎えたんだ。だから、もう次の物語に移らなくては。次の伝説を消化しなくては、ね?」
     鍛冶師は胡乱げに常磐木を見つめる。その白琳の右手を。カイカノン統一紋――「未だ発生していない」紋様が刻まれた手の甲を見つめる。
    「みや。……本当に、もうすぐ、僕が生まれて。そのあと僕がこういう外見になったときに、僕はここを去るだろう」
     去るだろう。
     生まれる前は神だった、と伝えられることになる帝皇は笑った。

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