未開の地だと言っていたのは誰だったか。
ほとんど言葉の通じないその国の民は木を組み合わせた家に住んでいる。地面から階段を二段上がって入り口へ、そこからさらに腰ほどに高い位置が床だと言った。
「まれびととはもの珍しい。いましめの雪中をよう参られた。されどされど、お前の話は無為になろうよ。ひとりは微笑み返そうぞ。しかれどみなは頷くまいて。頷けぬのが我らの性質よ」
暖のためだからとこだわりなくくべた枝がバチンとはぜる。裂目から漂う甘い香りを手にした羊皮紙で叩き落とした。
鳥の肩の上でふわふわとした毛がはねている。自分とほとんど同じ色をまとう彼は、紫の目を眇めて火箸を置いた。
「何ぞ」
「鳥どの。そういうことであろうとどうでもよろしいのです。ティンダル老の夢に近づくための行動ゆえ」
てめえらの都合なんざ関係ないぜと言いたいのである。配慮ぐらいはしよう。けれど、考慮のあまり遠慮していては広まるものも広がってくれない。
ギルベリアは広がらねばならない。広まらなければならない。無駄であろうと経堂を建てよう。教会を建てよう。机を並べ、蝋燭を灯し、黄銅の鍵を開け放って。
「雨夜だろう、なれど香りがたなびくこともあるので」
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