振り袖に見えたといいつつ、振り袖を着る女子が――空色の振り袖が似合う女子がいないので、天都風にずらしました。
【梅雨の少し晴れた夕暮れの景】
少年の長い袖が風をはらんで膨らんだ。
長雨が晴れた浅い空色は雨粒の涙を隠して少し鈍さがあって、にじんでいる。
肩口の白昼から夕刻の裾へとあえて織り色に変化をつけているのが、その形の装束では珍しい。金糸銀糸の刺繍はこの少年と思うまでにもはや見慣れてしまったものだが、雲紋様をさしておらず、刺繍を重ねてちぎれ雲を描き出していた。風の彩りをそのままうつしたようだった。
空を飛べばきっと紛れてしまうだろう。夕闇の落ちる前、ゆっくりと山に沈む昼の光が和らぎ、千切れた雲の縁を金色に、ふわふわとした糸雲を白金に色なして。
それはとても好みだった。はじめて目にしたが気に入り、少年をほめちぎってしまった気がする。言うたび素直に喜ばれるのでどこかでやめようもなかった。事実、良点しか目につかなかったのだからしかたない。
それからまた少し経った。カイカノンの夜に晴れの日は少ないが、満ちる頃だけは晴れやすい。暦によればそろそろ満ちる。麻結は暦で月を数えるのをわりあい好んでいて、蛇腹折りの暦を自室の長持ちにいれている。起き抜けと就寝前に広げてみるのが日課になっている。
そっと長持ちの蓋を閉めて、麻結は布団を着た。ころんと転がって明かりを消す。まぶたを閉ざせばすぐそこに夢見る風景が広がった。
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