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昔、ひとりの子どもに会った。諦めきれない、と泣いていたソラに彼は言う。
生まれ変わる、なんて言うけれど、生まれ変わったキミは、もうキミではないよね。キミの苦しみはキミのものじゃないか、キミ以外の誰が背負う? だろう? ねえ、ついえるなんて許したくないよね? ――と。
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「ソラ。君に時間をあげようか……?」
「いただくわ……。そうよ。私が殺されるなんて、そんなの、嘘」
血を吐きながら、そう答えた。仰向けに倒れた腹の上には、先ほど仕上げたばかりの譜が乗っている。血の飛沫が、灰茶色の紙に散った。
まだ何もなせていない。まだ田舎の、埋没した誰かさんでしかない。
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胸を穿つ刃を引き抜いたのは、いったい誰だったのか。皮肉にも、その記憶はついえない命と引き替えに、ものの見事についえてしまった。
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与えられたことだけは覚えていた。水鏡をのぞくたび、朱紅く染まった瞳がそれを思い出させる。朱紅、だ。それを後悔したことなんてないが。
己が知る、朱紅の言葉を思いだす。朱紅い瞳はひとつの証である。今、歌う言葉は思い知らせるためのものだった。滅びるなんて許さない、忘却なんて許さない、このまま自分が死ぬのは間違っている。そんな思いを、知らしめるためのものだ。
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死滅がない。何故ならすでに死んでいるから。
忘却がない。何故ならこの身はすでに人ではないから。
結末がない。ソラは終わりようがないのだ。だから歩む他がなかった。ときとともに重くなる荷を背負い、ただ歩いていく。

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