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    ている おぶ おとん

     父にしろ伊月にしろそういう巡り合わせなのだ。
     伊月が転勤族という言葉を知ったのは七年だか八年だか齢を重ねた頃だったが、意味を知ったのはそれよりもっと昔だった。
     黒板の前で衆目を浴びるのに慣れ、自身を転校族と呼べるのであろうとあきらめがついたのと同時かと思う。
     夏休みだとかには祖父母の待つ家に戻ったけれど、どうも腰を落ち着けたと思えた記憶がない。自宅――マンションだったりアパートだったり貸家であったりした、にいるときでもそうだったので、仕方がないのかも知れなかった。
     だいたいどこにいても身軽に父は移動する。本人は行きたくないんだけどね、会社だしね、などと口にするが、東海道は勿論のこと南海道も北海道も北陸道にも伊月を連れ回しておきながら言うことではないのである。
    「わかってるけどさ。で? 今度はどこ」
     未就学児時代も勘定に入れると十を超えそうな気がしている。人生何度目の転校だろう。唯一幸いなのは三年ではあるがまだ二学期で、何とか進路を変えることができると言うだけ――。
    「えっと、一応ね、席だけは東京の本社でね、たまに、帰ってくるんだけどね、帰ってきたら一週間くらいいるみたいだけど、し、しんがぽぉる……?」
     変えすぎだ。
    「ああ、本当にわかった、さよなら父さん。俺どっか寮制の高校受ける。それか父さんがいつ来てもいいくらいのアパート借りよう。待ってる」
    「えええ……」
    「ついていけるか!」
    「だいじょうぶ! 伊月、バイリンガルにオトモダチできるよっ」
    「私立、今から間に合うか……? そうだ塾の資料室行ってこよう、うん。ああ、そういや片桐も関東行くとか言ってたっけなー。資料持ってるかなー」
    「あ、あのね、東京高いよ!」
     しゅぴし、と右腕を伸ばして宣言するもういくつ寝ると四十歳。
    「願書取りに行かなきゃな。……何が?」
    「アパートだとか物価だとか」
     普段は父子ふたりで住み、頼みの祖父母も遠方にいるとあって父とは多くの情報を共有している。お別れ会にも慣れた日に教えられたのは生命保険の額と貯金の残額。それ以降は昇給のたびに逐一申告、いまやボーナスの金額を見て今年の査定の結果も量れるほどである。
     月々の出費と毎日の出費、経費と私費の違いから、すべて。
    「貯金あるでしょ、オトウサマ。誰が海外いくか。楓はどーする。どこにするか……えっと学費順に並んでいる資料本ねぇわけ……? 楓、部屋に戻ろう」
    「あ……どうしようね。で、でも伊月がいないと……あ」
     かえっちゃった、と

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