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    ピアニシシモが聴こえない

     というタイトルで書こうとして挫折。
     タイトル先だとどうしてこう……。

     仕方ないので。

    …………………………
    【羅のあわい】

     夏の暑さが去り、前線が首都のあたりで国を分断するようになった。
     その南側に入るから、鳴海聖の頭上に雨が落ちてくれている。
     手入れを忘れた苔がしっとりとした弾力をもって足の裏を支えている。直径十数センチほどの水路から落ち葉をかき出してやると、溜まっていた雨水は裏の戸の向こうへ流れていった。
     鮮やかな色をしたナイロンの上着を着て、さらに庭掃除用の重たいエプロンを身につけている。あまり重いから、きっと掃除を適当なところでやめにするようにとのご意志なのだ。
     熊手から竹箒に持ち替えて庭石の上を払ってやる。小さな窪みに入りこんだ砂を、エプロンのポケットから取り出した歯ブラシの先を切って整えたのやスポンジやで払い落とした。最後に雑巾をかけて地面に落ちた葉をひとところにまとめる。季節の変わり目をふたつまたぐ頃にはすっかり土と同化していることだろう。
     いつものように蔵の前でエプロンを外し、雫を滴らせたハンガーに引っかけた。
     雨粒を水掻きでひき止めるように髪をかきあげると、とろりと溶けて零れていく。
    「今日もこうしてくれるのか」
     雲の向こうで丸い光が傾斜を下る。
     慣れた手つきで勝手口の鍵を回し、中からタオルを引っ張り出して被った。
     過剰な水分を吸いとらせ、サンダルを拭いて所定の位置へ放った。
     ゆるゆると黄昏の気配が近づいてきているここは母親の実家である。連れられてはふた月に一度、自発的にはひと月に二度、仕方なしに足を運ぶ回数も合わせると随分頻繁に訪れている気がした。
     とても居心地がいい場所だから、それでつい庭箒など持ち出したり障子を張り替えたりしてしまうのかも知れない。
     掃除を始めた頃は降り始めの少しばかり粒が大きい水が、色あせた如雨露の中へ飛びこんで、その素材らしい軽薄な音を立てていた。今は水が水を叩いて、細めやかな波に音を吸わせている。
     夏の間頑張りすぎて疲れたのだろう、踏ん張りきれずに光が坂を転がり落ちて、夜が来る。

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