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【彼は、あらゆる意味で「強いものに弱い」人間である】
彼女は、逃さない。万のひとつも与えない。万のひとつを模索して考えても、如何やっても、自分が生き残る世界が見えなかった。
「駄目だ……っっっっ」
死ぬのは嫌だ、殺されるのは間違っている、最期なんて認めない、生きられないなんて嘘だ、ここでついえるなんて馬鹿げている、あと なんて信じない、消えるのはご免だ。いつもいつもいつも殺されると考えて生きてきたけれど。いつかいつかいつか殺されると解っていたけれど。それは断じて、目の前の鳥にではなかった。
あの人のために消えるのは、嫌で嫌で堪らないけど覚悟だけしていた。あの人に費やされるのは、おぞましくておぞましくてならないけど諦めていた。あの人に捧げなくてはいけないのは、悔しくて悔しくてならないけど、そうなってしまうと決められている。
あのひとのために死ぬなんて、消費されるなんて、使われるなんて、拒絶したいけれども如何にもならないって。あの人を守るためには、目の前の鳥を殺さなくてはならないなんて、とても嫌だけど、そうするしかできないんだって。
「そんなの絶対、駄目だ――」
逆らえない本能を、否定する。鳥を殺そうとする腕を、制止する。金茶の瞳を聖は撃てない、金茶の翼を聖は斬れない、したくない。
望んでなくても体が動く。この体は、そうできていた。
「鏡の子」
鷹は凜とした聲で啼いた。
「鳴海聖」
鷹は聖の名前を呼んだ。鳥の王は羽撃たき、タクトに触れる。
主のために、鳴海聖は鳥を討たなくてはならない。涼やかな少年のような少女を、撃ち殺さなくてはならない。
「鳴海聖――剣を抜け、鳴海聖。指揮棒程度でごまかすな。おぬしの剣を抜くがいい」
鷹は、はさ、と飛んで、地に足をつけた。鳥の王は名薙羽の銘を背負う刃を手に、立つ。
「おぬしの牙を剥くといい――だろう、神狼のなれの果て」
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