忍者ブログ
05
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 管理画面

    [PR]

    ×

    [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

    その日、ピアニストは

     言葉を覚えてから――
     文字を知ってから――
     いくつかの節目がすぎて。ヴァイオリンを見つめている青年とともに歩くようになってかもそれなりにながい時が過ぎた。
     いくども髪を切った。靴を何足も履きつぶした。
    「ランさん」
     旅の連れのヴァイオリニストは呼びかけるとすぐに手を止めてくれる。とすん、とささやかな行動が胸に落ちてくる。いつもこの人はそうだった。ほしいときに顔をあげればそこに掌が、ある。
    「どうかした、アッシュ」
     南窓を頭に、チェストを挟んで二台並んだ宿の寝台に腰かけて向かい合う。
     足許にはいつでも旅立てるようにまとめた荷物があり、片づけられた部屋の中で箱から出ているのは彼の楽器だけだった。
    「お昼ですね」
    「そうだね」
    「ヴァイオリンの調子もいいんですね」
    「そうだね」
    「楽譜、まだ持っています?」
     ああ、とランが息をもらすと不意にぼててててぇ、と廊下の方から奇怪な音がして、べぼっ、とドアにぶつかった。
     その扉が開く前に、お別れです、と口にした。

    拍手

    PR

    お名前
    タイトル
    文字色
    URL
    コメント
    パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
    非公開コメント
    [767]  [766]  [765]  [764]  [763]  [762]  [761]  [760]  [759]  [758]  [757


        ◆ graphics by アンの小箱 ◆ designed by Anne ◆

        忍者ブログ [PR]