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【solla30b.jtd】
「共通語教育及び共通認識の普及促進会、略して教会、または共会。教育委員会と言った人もいたわね。あとは学会、だったかしら――だから、学都ギディルと呼ばれた時代もあったらしいけれど」
ソラは指示棒を使って、アッシュを左の扉へ促した。彼の手で、真鍮は抵抗なく回る。そして、油がよく馴染んだ蝶番が障りない音を立てて導く。
「――総ての知識が《ここ》にある。研究者の都、学びの牢獄、帰らずの塔。いと高き黒塔は真理のための墓標」
蔵書庫の前で目を見開くアッシュに、私は知識に縋りに来たの、とソラは笑った。
「情けないのは一緒だけど、君みたいに面白可笑しい理由がなくてごめんなさいね」
ソラさん、それ明らかに自他共に対するイヤミです、と喉に詰まった声と咳がした。
扉の先には蔵書庫がある。果てのない書庫の中央に、ソラとアッシュは降りた。といっても、一日踏み出しただけである。
書見台の乗った織式陣が幾つかあり、それらを中心に天辺の見えないほど高い書棚が限りなく広がる。上方に限りがない。また横方向にもどこまでも広い。消失点が見える。
総ての知識を蒐集した書庫だ。
銀で縁取られた厚い書と銀が塗りつけられている巻子が、書棚に収められていた。銀は回路。銀は弦。蔵書庫の黒い床に描かれた、正八角形を組み上げる紋様――織式陣に繋がる。
「その勘、その理論、その知識。結実を招くは積み立てた記録、この脳の容量たる記憶力、組み織る構成力、影響力、魔力、技術、創造性、そして親和性」
だらだらと共通認識の発現を呼ぶ。
あえて口にしているのは、共通認識普及促進会の本部に敬意を表してのことだ。音声もまた、弦と言っていい。回路が回路であるという認識を伝えるための弦と言って支障ないだろう。
床の白い模様は構成の補助に、銀の縁取りは影響力と親和性の補助になる。技術は蔵書庫そのもので、記録ならば溢れる書物、記憶はひたすらにソラの脳に収まるべきだと知っている。それらをなさしめる魔力は――勿論、この体に宿っている。
「君、一度宿に帰りなさい。私、これから三ヶ月はここに籠もるつもりだから」
そのための滞在だ。手を差し出しかけた彼の好意はありがたいが、ソラが探したいと思うものを、他者が見つけ得る道理はないと断った。彼はここまでつき合わせておきながらー、と渋々去っていった。
「ソラとソルを探して」
ソラは回路の中央に立って命じる。蔵書庫という機構に己を組みこみ、記録を記憶に引っ張りこむ。水差しの水を杯に注ぐように、記録を脳に移していく。書庫の中央付近を探す――ない。差し出されたパンを口に放りこんだ。外側へ広げる――ない。パンを差し出されたので掴んだ。更に広げる――やはりない。食べ残しは、日度に持ち帰られた。記録検索機に組みこんだ己は、幾つもの記録を通り過ぎながら拾っていく。
五十年前の鳥の声が聞こえる。しかし探しているのはそれではない。パンがなくなったのか燻製になった。四百年前の少年の泣き声が耳に痛い。けれども見つけたいのはそれではない。端の一切れをのみこんだ。焼け焦げた灰色と題された真っ白なページを見つける。それはまだ記述されていない。
ソラとソルを見いだそうと、高速かつ丁寧に思念を通していく。どれも近い。とりわけ今通り過ぎた本はとても近い。近いということは知覚できたが、やや遠かった。未然の書である。過去の記録ではなく、これからの記録。ソラが中身を知れるはずがない。もうひとつ、もう一冊で行き当たらなかったら諦めるから、と
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何でこんなことに原稿用紙三枚も費やしているんだろう……。冗長すぎる、書きすぎている。削んないと。
そのことを自覚するために貼り付けてみた。いちいち白沢は書きすぎる、というか、筆ノリに流されすぎる。
楽しいからって、書きすぎですよねー。はあorz
あ、辛うじてDあたりですみそうです。よかった。
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