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【再利用・雪月花1-1】
十二月 二十四-X日……
柊 美鈴――彼女の場合
好きな食べ物は? と聞かれたら、まずこう答えるだろう。
「喰えるモノ」
具体的に! と言われたら、……聞かれてもこうだろう。
「故郷の料理」
その中の一番は何だ? と、ツッこまれたら。
「家庭の味だよ……」
躊躇いがちに言うだろう。
家庭……を無くしてから、もう何年経っただろう。――何年経っても、その味だけは忘れていない。
雪の日は好きだった。寒いのは、外に出れないのは嫌だったけれど。
冷たい中で、どこか温かい。
雪の降りゆく音も、太陽があたったその瞬間の光も、常緑樹の上の白も煌めいて。積もった雪も心地いい。
暖炉の火も、温かいスープも……揺り椅子の揺れる木の音も。
みんな好きだった。
暖かな温もり。
だけど、今の私にはそれが無い。
それでも満たされている。友人……仲間がいるから。
紫苑、葵、桔梗、楓、橘、黍……。
神奈川と、東京の県境(東京側)にある二つの家に私達は住んでいる。
この辺りの住宅事情によると、二軒ともかなり広いらしい。慈姑と一緒に鬼神達に頼み込んで(半ば脅迫して)貰った家で、住み心地はすこぶるいい。
とてもよく手入れされていたので、私達がやった事と言えば、二軒を隔てる塀を壊して取り払った事だけ。
住居の問題は、鬼神の支援を受けてるから、無い。
しかし、ただで生活なんて出来るワケがないので働いている。一応。
家から見て道を挟んだ向かい側。高里 要がオーナーの喫茶店、カフェ・セイリオス。
要とは、ここに住居を定めた時にやった、御近所回りで知り合った。で、その日に雇ってくれ、と頼み込み――要は快諾し、次の日からいきなり入れと言った。
要曰く、雇われ人がいないの~。と。近所の人達が来る様になったので人手不足だから。と。
「しっかし、ここって喫茶店って言えるのかしらー」
「そーだよ、一応。ま、小物とか、わけわかめな薬とか売ってて、雑貨屋さん状態に陥ってるけど……」
トントントン。軽快にニンジンさんを切りながら、桔梗が私に答える。
「私達が料理できるからって、メニューに色々と追加したみたいねー、要は」
「人手はあるからな。時間掛かるヤツ作ってもOKだ。……とか、要は言ってたが。喫茶って言うより、すでに料理屋の域にいってるな、飲食物。珈琲は何気に高いし」
ジャガイモが一口サイズ(少し大きめ)に切られていく。
私と桔梗は大抵調理場にいる。気がついたら、ここの担当にされていた。料理は好きだから文句は無い。ただこの店の大雑把さが気になるだけで。
そう言えば、最初はお茶類と、ケーキが置いてあるだけの店にするつもりだった。とかここのオーナーはほざいていた。
深型ナベに次々と切られた野菜が投入される。
「ま、品質がいいって事で。納得してあげましょうー」
桔梗がふとカレンダーを見て、小さくあっ……。と、声を出す。
「十二月……もう中旬じゃないか……」
「あ、クリスマスーね。さって、誰と一緒に過ごせるかにゃー?」
それを聞いた桔梗がこちらを向く。その顔の右半分は怒った様な……左半分は笑っている様な……奇妙な表情で私を見る。
「…………」
「…………」
負けるのはイヤなので、こちらも見つめ続ける。
普通だったらここで、ほわほわした空気と約束が来るだろうが、私達の間にあるのは。何と言うか……ねっちりとまったりとスパイシーでデンジャラスかつ、サスペンスな空気だった。
「…………」
「…………」
「……………………阿呆」
左半分の表情は微笑ではなかった! 哀れんで、小馬鹿にしている冷笑か?
「クリスマスは……客を取りやすいよな、この辺りなら。と、この店だって営業するだろう。当然――朝から準備、昼には客が訪れて、夜はきっとピークだよな?」
「…………」
「通常営業でさえ、さり気なーく忙しいオレ達のどこに、楽しむ暇があるんだ……?」
桔梗の言ってる事は全部、認めたくない事実だった。よりにもよってコイツに肯定されるとはっ!
「……………………はうっ」
ぐらっと私は倒……れなかった。
崩れ落ちる寸前に桔梗に支えられ、そのままの格好で冷淡に言い放たれる。
「忙しいと言ったろう? 倒れるんじゃない」
――――こんちくしょう……。
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