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【ワンコインプラス消費税】
「そう、全部525円なんだよ。香澄も行かない? 荷物持ってくれると、ちょう助かる」
「うわ、まじそれ連れてって!」
幼なじみの提案内容を咀嚼せずに、西村香澄が飛びつくのは毎度のこと。
一秒遅れで、新しいパーカーとか、古着のパーカーとか、新しいパーカーとか、この少ないお小遣いでも三着くらいは手に入るんではないだろうかと思いつく。定期圏内なのも魅力的だ。
自転車で通学している聖はいくらかの出費を要するだろうが、やつは安く買うための遠出なら必要経費としてきちんと別腹計上する脳味噌を持っている。この件について、毎日算数をしてて疲れないんだろか、とおかんに言ってみたら、アンタあたしと家計簿なんだと思ってんのと殴られた。ついでにこないだのテストの点数も言われた上で、ああ、ヒズくんがうちの子だったら、お小遣いの渡しがいもあるのにねぇ、などとため息までつかれた。世の中不思議にできている。
「言っとくけどね、525円に見える525円は買っちゃ駄目だからな」
「なんでさ」
だって525円なんだろう。
「せめて千円以上出したように見えなきゃ嫌だろう!?」
嫌じゃないが、そう言ったら首しめられそうな予感がする。長年のつきあいなめんな。
525円には違いないじゃないか。525円で買ったんだから、525円に見えて当たり前なんじゃないだろか。
四桁と三桁の間の高い高い壁についての演説が朗々と響く、ここは特別教室棟一階――の片隅に追いやられた高等部一年八組、である。
「まって、ヒズやめてせつない! お前これ以上続けてみろ! 三桁で買ったのをさも四桁で買ったかのように見せかけて着てます、ってこと暴露してるだけになるだろ!」
貴重な小遣いを、ゲームでも何でもなく服に注ぎこむのには訳がある。運動着こそ制服だが、そのほかは基準服と正装服を定めているので、意外に私服の占める割合が大きい高校なのであった。基準に沿っていればたいがい自由で、個性と手抜きと張り切りの見せ所だった。
「ほんと、まったく自慢になってねぇから!」
「――そう、だね。まあいいか。あまりにあれなのは後でどうにか……」
店で選ぶものすべてに聖おかーさんのチェックが入りそうな気がする。
が、昔っからのつきあいなめんな。
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陽羅の響い。西村香澄と鳴海聖。
基準服と正装服しかないので、平常時はほぼ私服です。基準か正装のジャケット羽織っていればだいたい通過するレベルの服規制。明らかに基準から遠ざかっている場合は、アルフォンソさんなり、クララさんなりからつっこみが入ります。
運動着のみ制服なのは、対外試合があることと、ランニングや持久走で校外にでる可能性があることあたりが理由かと。部活もユニフォームくらいはあります。平常時は私服可なので、試合の時に忘れる人多発。顧問の先生のバッグには、常に二三着入っているとかいないとか。
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