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【試し打ちRetro】
藁束を見つけてしまえば、あとはもう、呼吸ひとつの間だった。甲高く神経質な鳴き声が響く。藻掻いて藻掻いて柵を蹴り、蹴れども逃れられぬ馬は嘶く。
「厭だ、如何して、消えてくれないの……っ」
と、日和子は土を掻いて泣いた。牛馬の焼ける臭いがする。鍬の鉄錆が、炎に凌駕されていく。立ち上る炎を目の前にして、菜種の皿を引き戻すくらいしかできなかった。
「今日は盂蘭盆でも何でもないのよ。如何して燃えているの」
一斉に燃えるために、積まれていた訳ではなかろ、燃えているなど可笑しかろ。そう言って伸ばした手は、火には勿論、馬にも届かなかった。
加減知らずに、火は藁束から一部が剥離した土壁へ、土壁から塀へ、塀から薪と枯れ草へ、隣家へと、北風に煽られていく。
誰か助けて、と少女は聲の限りに叫び、継ぎの吸気で意識を手放した。馬も同時に崩れ落ち、その額に白い右手が乗せられたような幻を見た。
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