おれのカレンダーは八月で止まっている。
そろそろ、家に帰る気にならないかな、と唐突に言う。昼御飯の塩梅がどうとかの話に急に混ぜてきたから大半を聞き流していて、思わずもう一度言わせてしまった。
幸せが一粒二粒、三粒四粒以下省略。幸せの量が一杯になってしまった。もったいないからカンスト後の値も隠し変数で持っていてくれないかしら。
行く末を知るの、は。上下に激しく跳ねる郵便馬車に詰め込まれた封筒。寒波よりもはやく吹き降りて、開花前線より鮮やかにかけ上がる。所々パリパリになった紙の上、滲むインクの筆致が歌うたいのおにいさんの歌を歌う。二度とピアノでは鳴らない、楽しげな歌を歌う。
白くきれいな王冠、は。
紅い月の涙雨を知っている。旅人は五十年の昔を弾きあらわして声ひとつなく物語った。この音は鏡を割った矢の、この連なりは長柄のひと薙ぎ、こちらの低音は邸にある人の悔悟のうめき、ピチカートは泣き方を忘れたウサギの涙雨。遠い遠いあなたの音と色づかせて奏であげる。知っていますとも、覚えてますとも、忘れませんとも。古譜をなぞり続けていきますよと、旅人は真後ろに立つもうひとりの旅人に微笑みかけた。
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