【中盤後半断片】
ほとんど中天に昇った日(時間設定直し、書き換え、だってまだ午前)が作る影は短い。(夏の太陽?)
しかも庇も幅狭い。陰りには体の前半分しか入ってくれなかった。影と日向の間に立って、背面は焼ける腹は冷える。半ばまでしか踏み込まないから、自分の黒服が影に解けずに形をとどめる。
日射に負ける間などないぞと、直純の腕をつかんで引き上げた。
暑いだろう、眩めくだろう、陰に慣れた目に日射しは辛い。目が驚いて白く染まっていることだろう。だがそれも待つ気はない。地面近くの景色が揺れようと、老人を追思して心が揺らごうと、沸いた頭で認める空がぐるぐる回っていようとも、通夜と葬儀は許してくれない。
「きりきり働け、西村直純。忘我も追悔も初七日までとっておけ、てめえのことより義高さんの今後のために回せる限り脳みそを回転させろ」
それが遺族の務めだろう。と、裏小屋と(火のお仕事、それとも水のおしごと)
リン、外し忘れた風鈴(鐸?)の音が通り抜ける。雫のこぼれる音に似ている、泣きぬれる声に似ている。
溜まったアルコール綿をゴミ袋に移す。(2002年は黒いゴミ袋かそれとも透明ゴミ袋に変わっていたか)
洗い場のたらいに水羊羹の空き缶が浸けられていた。ふちにまだ羊羹が残っている(こびりついて?)。たわしを使ってそぎ落とし、指を切らないように留意して濯いだ。お中元だったのかな、いや、これオレがさしだしたものじゃないか、もしかして、と唇の端が少し上がる。不自然にゆがんで息が吐き出された。
(つかわないだろう、ぽーい)
忙しい。息つく暇も嘆く暇もない。手が勝手に次の食器を取って洗い濯ぐ。死ではなく皿と料理に支配されていた。
蔵にしまいこんでいた七輪ふたつと竈の煤や埃を払い、火をおこす。
どこに隠してあったのか見慣れない黒の上下に白いエプロンをかけて知る顔も初見の顔もめまぐるしく働いていた。
平気平気父さん今回担当医じゃない
謝罪はまったくもって筋違い、父をにらんで
在宅のまま亡くなって回診のみの患者であろうと医師はやはり伏して謝す。ご苦労さまでしたの礼でもなく、冥福をの祈りでもなく、
外科医は毎度のように謝しに赴き、己の失態であろうとなかろうと目を伏せて請う。
関わりないところで死んだ相手のために涙を流す――のならばまだ許せるのに。
「ヒズ君はしっかりしているわねぇ」
慣れているだけだよ、と昨日捨ててきた死体を思い出して舌打ちする。魔術使いは清掃業者なんじゃないか。
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