「……よく、厭きないね」
眼前で手を伸べる男を目だけ動かして女は睨んだ。
そうでもないのだ。勘違いを語られても、返す言葉の持ち合わせがない。
実際、胃こそ間断なく痛んでいるが、とうに緊張に緊張するのを止めている。
厭きたのだ。
もう、厭きたのだ。
緊張を続けることも面倒で、この先を案じることも億劫で、厭きることにも厭いた。
「時待ち鐘もさっさと響けばいいものを」
「そうだね。鳴らないなら、鳴らないと言ってくれたら諦めもつくね。厭きるのではなく――」
止めることができる幸福を享受できたかもしれない。
赤に塗られた室のなか、女はゆるゆると溶ける。
「おや、ようやくその時が来たね」
「そのようだ……」
「行くの」
「行くとも」
液化した女は流れのままに動く。促されるに従って流下する。
「ご武運を。こんなに待たされたんだ、よい結末を迎えられるよう」
自分とは動機は短所これからどうするゼミ何を学んで社会貢献
「私は一個の歯車なんだが、アレだね。たかが歯車でも私のおかげで機能する機構が存在すると自覚すると、何やら自負なんてものが生まれるんだよ。歯車なんだから歯車が動くから、総てが回るなんて道理なんだけど」
クドウはにこにこと井戸水を組む。
「それが、大きなものだともっと楽しい、見ると嬉しい。まったくそんなものなくたって世界は整然と回るんだとわかってるけどね。世界視の機械なんかいらないさ。ここで生き延びるだけならね、見えなくても支障ないよ。まあ、治水機能自体は……うん、いや、まあやはり、あった方がいい程度のものかな。だって、水没しない、かといって乾きすぎない場に住めばいいんだから。前はそうしてたろう? 全員が河川に沿って生きていた方が都合がいいから、って誰の都合だろうかね、本来生きて行けない土地に無理矢理移動しただけだろ」
馬鹿だったねぇ、とクドウはクドウに言う。
「本当に、必要なんか……」 なかった。移動しなくても、きっと生きて行けた。無闇に家族を増やさなければ。かつかつだっただろうとは思うけれど。
クドウはそう了解していた。
「私がいたから、だなんて思い上がって、こんなところに来なくても、誰も困らなかったんだ」
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