何とか筆は進み始めましたが、進めば進むほどアシュレイが馬鹿であほでのんびり屋になっていって、はっは、このばか! ソラにさえつっこまれてどうすんだよ。とか思う展開になっています。
越冬の宿をきめ、教会見学に乗り出したあたりから、以下。
…………………………
【ソラ】
石畳と硬い土、寒冷地でも育つささやかな緑の庭を進みながら、後ろを振り返らずに聞く。振り向こうにも、背の箱の所為でうまく向けないのだが。
「ひまだからです。そんでもって、聖都のことわからないからです。ところで、ここどこですか」
「教会本部。じゃあ、観光案内所に行きなさい」
「ああ、ここがそうなんですか。観光したいわけじゃないんですけど、ええと、お祈りもあんまり必要ないし」
気の抜け切った回答に、それならどうして聖都に来たの、と体ごと振り返ってしまった。彼は二三秒首を傾けてから、旅の連れに置いていかれたので何となく、とあっけらかんと答える。何でもないことのようにと言うよりは、ごく当然のことと考えているらしかった。まさしく日常茶飯事のごときこと、とでも思っているかのような。
「置いていかれるのが日常ってどういうことなの……」
「早起きできなくて。でも、半月も離れてるのは新記録ですねー。これからどんどん更新すると思いますけど」
それは当然だ。越冬の宿をとり留まれば、雪解けまでここを動けない。冷たい風がソラの頬を刺した。この分では、きっと半月も待たずに雪が降るだろう。
「アッシュくん。山を下りるなら、今。追いつきたいなら、さっさとここを去りなさい」
成人した春に旅に出された。それから四年、その年の数だけ冬を越えてきた。やや北の高所で冬を越す時間の多大なロスを知っている。
「うーん、でもいいんです、何か呼ばれた気がしてるので」
「それは錯覚。幻聴。魔術師の勘には君の質が足りないわ」
「ひどい。すごいばっさり切って捨てられた気がします。宿にいなくてちょっとがっかりしましたけど、その、呼ばれたーっていう勘が、すいさん関連じゃなかったので。でもいーんです。だって僕、旅する音楽家さんですけども、冬眠するのが好きですからっ」
「冬眠。そう、冬眠と言うのね? なかなか言い得て妙だけれど、それは自堕落ということなんじゃないかしら?」
旅人ならば前へ進め、一歩でも多く世界を渡れ、その指標を置き忘れている気がする。ソラのように、半年近くの足止め覚悟でいるのならばともかく、目の前の少年は無邪気に過ぎる。彼の旅の連れとやらが、置いていきたくなった気持ちが解らないでもない。
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