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    書き直すつもりなのでこちらに

     ひとつ下の記事、無論わたくしめも作品を出しました。
     1200用に縮め(お兄ちゃんのヘタレ心配症っぷりを省い)たので、イマイチな出来ですが。

     隔離内でございます。

     月曜の深夜版が下、火曜早朝修正版が上です。

     文量は原稿用紙3枚以内。
     最初の段落は、今回のお題でした。
     なので、白沢の文章ではありません。ご了承を。



    …………………………

    【かえでの灰白色】

     背凭れの高い肘掛椅子に膝を抱えて沈み込んでいた佳奈は、ふとこの椅子も梧郎のところから持ってきたのだったと気づいて、小さい溜息をついた。明るいオレンジ色のスウェードを張ったこの椅子は、二人で見つけて、いいねと言ってから半年後にやっと買ったものだった。彼と別れて家を出るとき、持っていけよ、俺はいいよ、と梧郎が何度か言って佳奈の引越荷物に加わったのだった。

     邪魔になる、と断りきれなかったのは対で買ってしまったせいだろう。出ていくと告げた日から、梧郎は木椅子の色を視界に入れなくなった。空座が気になるんだと、他にも勝手に荷物を加えながら、説得を繰り返された。

     椅子ごとそれらを背負った姿は滑稽で、巣立ちに笑顔を添えてくれた。梧郎は多分、惜別の情を総括した表情を作ろうとしたのだろうが、ものの見事に崩れ去った。残ったのは眉を寄せたままの不格好な破顔で、それもすぐに笑声の中に消えた。

    「行商の二宮尊徳像」

     うるさい黙れ、行商には荷物少なすぎる、尊德が行商して堪るか、などとわめきながら、長年下宿していた従兄の家を後にした記憶も、もう古い。使い込むうちについた傷と破れ目を指で辿った。堅いメイプル材に溝や割れ目が刻まれている。スウェードの色は今なお鮮やかだが、それだけだった。中の綿はぽろぽろしている。ニスのはげた部分から、当たり前すぎて忘れていた、特有の甘い香りが漂う。総て年を経てきた証左だった。

     淡い灰白色をなぞる。この椅子が片割れであるという事実が、ちくりと刺さった。椅子からおりて、棘抜きと用意していたシールを取りだそうと、合板製チェストのひきだしを引いた。右手の拇指と中指で爪鑢の隣から棘抜きを、左手でシールの入った封筒をつまむ。

     壁掛時計を見て、佳奈は目を見開いた。朝食の片づけもまだしていないのに、八時をとっくに回っている。刺抜きはあとだった。慌てて五百円で買った証紙シールを椅子に貼って、玄関の外に出した。暇がないと解れば体は動くものだから、それにつられて感傷も変わってくれないかと願う。くしゃくしゃと灰色のシール台紙を丸めて、ゴミ箱に投げた。

    「貰ったものはもうないぞ、ゴロ兄。ああ、有り難く使ったとも。革が破れるまで使ってやったとも。満足だ。充分だろう。夢の島送りだざまあみろ。兄貴分への敬愛その他諸々の行き先だよ、光栄でしょ。格好つけと笑え。笑ってくれた方がいい。……さ、私の棘でも抜くとしましょうかね」

    …………………………

     楓=メイプルです。淡灰白~黄褐色の、明るくて淡泊な色合いの材木ですが、やや甘い香りがしますし、堅かったり(ハードメープル)柔らかかったり(ソフトメープル)もします。
     いや、それでも密度があるのでそんなに柔らかくはないはずですけど。

     メイプルシロップと、香りの甘さと
     色の淡さと
     木材としての特徴(狂いが少ない、バッドの材料など)

     この辺全部引っかけて、甘いようなそうでないような、さっぱりした話にしたかったわけであります。メイプルの甘さを消すほどに友情よりの話で。バッドの原料に相応しい攻撃的な佳奈さんで。それでも一緒に暮らしていたのなら、甘いときもあったのではないかとタイトルから類推してくれたら嬉しいなっ。
     ……無理だろ。


    …………………………

       灰白色


     背凭れの高い肘掛椅子に膝を抱えて沈み込んでいた佳奈は、ふとこの椅子も梧郎のところから持ってきたのだったと気づいて、小さい溜息をついた。明るいオレンジ色のスウェードを張ったこの椅子は、二人で見つけて、いいねと言ってから半年後にやっと買ったものだった。彼と別れて家を出るとき、持っていけよ、俺はいいよ、と梧郎が何度か言って佳奈の引越荷物に加わったのだった。

     邪魔になるから、と断りきれなかったのは対で買ってしまったせいだろう。佳奈が出ていくと告げた日から、梧郎は木椅子に張られた色を視界に入れないようにしていた。空座が気になるし一脚でいいと、他にも勝手に荷物を加えながら、説得を繰り返された。

     勝手に追加された分含め、荷物を椅子ごと背負った姿は不格好で、巣立ちに笑顔を添えてくれた。梧郎は多分、惜別の情を総括した表情を作ろうとしたのだろうが、ものの見事に崩れた。残ったのは眉を寄せたままの破顔だったが、それもすぐに笑声の中に消えた。

    「行商の二宮尊徳像」

     うるさい黙れ、行商にしては荷物少なすぎる、尊德が行商して堪るか、などとわめきながら、長年下宿していた従兄の家を後にした記憶も、もう古い。使いこむうちに肘掛けについた傷と破れ目を指で辿った。堅いメイプル材に刻まれた溝や割れ目と釣り合いがとれない。スウェードの色だけが鮮やかだが、それだけだった。中の綿はぽろぽろしている。ニスのはげた部分から、当たり前すぎて忘れていた甘い香りが立ちのぼった気がした。

     淡い灰白色をなぞる。この椅子が片割れであるという事実が、ちくりと刺さった。まだ引きずるのか、椅子の脚を床の関係でもないだろうに。椅子からおりて、棘抜きと用意していたシールをとろうと、合板製チェストのひきだしを開けた。右手の拇指と中指で爪やすりの隣から棘抜きを、左手でシールの入った封筒をつまんで取り出す。

     壁掛時計が見えて、佳奈は驚いた。朝食の片付けもまだしていないのに、八時をとっくに回っている。刺抜きはあとだった。慌てて五百円出して買った証紙シールを椅子に貼って、玄関の外に出した。暇がないと解れば体は動くもので、それにつられて感傷も変わってくれないかと思う。くしゃくしゃと灰色のシール台紙を丸めて捨てる。

    「貰ったものはもうないぞ、ゴロ兄。ああ、有り難く使ったとも。革が破れるまで使ってやったとも。満足だ。充分だろう。夢の島送りは兄貴分への敬愛その他諸々の行き先だなんて言ってやる。格好つけてと笑え。笑ってる方がいい。……さ、私の棘でも抜くか」

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