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【三番目に向けて】
教会の朝は遅い。何故。――夜に強く、朝に弱い者が過半を占めるからだ。
若干名の朝型が朝と昼の役目を果たす。昼と夕は我らが、夜は各々の研究を。
フェンリィ・ウォーロックは石の壁に頬を寄せた。少しでも目覚ましになればいい。既に昼食時である。いい加減に目覚めなければ、午後の講義(正しくは夜型専用講義であり、フェンリィにとっては一時限目に当たる)に支障が出よう。
起きろ。最近の体調不良など考えるな。とにかく起きて知識を吸収しなければ、話にならない。
学徒はすなわち研究者で博士。教会は、学舎にして研究機関。宗教目的ではあるが、過分に解き明かす方に偏っている。
最大の教会を戴くギディルは、智者の丘に立つ。教会騎士を多く擁する王国でありながら、学者は今もって総てを押しのけて最高位。
ゆえに、智者の王国とも呼ばれる。
騎士の国で王の国、されども総ては智者を守るため、という国家の教会に籍を置くことは、最大の誉れだ。己の研究が認められているということでもある。そして、道行きに確かに光明があると保証されたようなもの。
その光明とやらにたどり着けるかは、やはり己次第だが、先のない者に用意する席はない。ギディルの教会にいても、闇は一向に闇のままだが、光があると確信できるか否かは随分違う。
隣接する小国は芸術に熱を注ぎ、大国は結界魔術に傾倒している。正しく、教えを伝えるにも、研究するにもいい位置にある。
何より、土地の持つ属性が、いいのだ。
彼の結界国は全属性がまんべんなく高く、影響でこの辺り一帯属性値が高い。小国は芳深朗融――半数の属性が意図的に積み立てられ、ギディルは……焔と芳が頭抜けて高い。
浄化の焔。
音律の芳。
一等に立つ神の象徴では、知者を養成する基盤とはとれないが――焔は文明を顕す。芳は知識を顕す。
高みを求めて駆けあがる力を焔は持ち、知識情報そのものであるのが芳なのだ。それ故の学士の王国。
フェンリィは壁伝いに移動する。徹夜がたたりすぎていた。咳きこむことはないが、だるい。だが、多少の不調は、酒でも呑めばどうにかなるだろう――。宿舎から研究棟までは遠く、礼拝堂は尚遠く、食堂もまた遠い。今はとりあえず、この距離をいくだけを考えることにした。
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