どうにも祖父を迎えたときの印象が拭い去れない白沢です、こんばんは。
布団を囲んだ皆が泣いていたはずなのに、呻くようにしていたはずなのに。
大伯父の言葉が聞こえるまで、無音に等しかった、凪いで和らいだ気配。
視界は白く霞みがかり、そこを隙間風が通り過ぎていく。
西村では、多分それを書きたかったんじゃないかなぁ。
「病気に勝てなかったんだな」とあの人が突っ伏してくれなかったら、多分白沢は泣いていなかっただろうから。
親類に感謝を思う。
縁側から帰ってきた祖父は口を閉ざしていた。
担架から畳に移され、そこからまた布団に移した。右足はあのときの白沢にも持ち上げられた。
アルコールを含ませた綿で唇をなぞり、やせこけた頬を拭う。
硬くなった顔をなぞる。押しても動かない。
数年後に帰ってきた曾祖母の口は開いていた。
その時になって、始めて病院にも感謝を覚えたのだと思う。
残された側の感傷といえば一言だけれども、やはり可愛そうだと思ったから。
お棺が来るまで、祖父が使っていた布団に寝かせたんですよね。
いつも西に枕があったのに、北を向いている。
隣の部屋に、伯母達が布団を敷いて蝋燭の番をする。
裏口に七輪を出してお通夜用の料理を作る。竃も使った気がする。
通夜は一番の下座に着いた。
告別式から帰ってきたら、玄関に硝子の大皿が置いてあって、塩がてんこ盛りだった。
新盆。
檀家なのでお寺のお坊さんが来る。
いつもいろいろ話していくのだけれども、葬儀の時と同様、思い出話になるものだから、涙腺がゆるくなって困る。
だれもバイトをしていなかったので、その年は皆が揃っていたと思う。
ともに経を上げ、つんざく、鐘の音を聞いていた。夏の妙に温い隙間風が、通って行っていた。
線香の匂いも抹香の匂いも、随分慣れてしまっていた。
義高は泣けないクチだと思うので。多分、彼は泣くことを躊躇うのではないかと。
泣いていいものかどうか、思い悩むのではないかと。
弟との間柄は、決裂していたわけでもよいわけでもなかったから。
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