しょぼん、の一発変換ナリ。
ちょっとした予感は、昨日布団に入る前の如何にも言い難い寒気であったろう。
「明日起きあがって学校いけるかな……」
市松人形ではないが、そんな感じの不安を抱きつつ就寝。
起きたら、僕の起床時間の一時間前くらいに送られたメール。
「……そうか。僕、一限だけでもいかなきゃダメか」
電車遅れていたのでヒトが溢れている。地元民は周知と思うが、あの駅に改札などない。無論のこと、庇など充分にあろう筈がない。駅の外(つか駐輪場)で待つ。
バイト仲間の高校生に出会う。
「かつてないほど混んでいますね。私、ホームに入れなかったのはじめてです」
あーめん、まったくそのとおり。僕だって、二十年生きて、始めて見た。
普段横目で、ああ、鎌倉まで1500円かかるんだよな、とか思いながら先頭車両まで歩くのだが、ホームに入れないのでは如何しようもない。やむなく最後尾、四両目に乗りこむ。
未だかつてなく混み。未だかつてなく潰される。
何故だ、JR。快適な旅はどこへ。
目的駅まで一駅。その間、線路は一本……てか、一車線。にもかかわらず、反対ホームに同方面行きの電車が停まっている。
「誰かが信号ミスしたら即追突事故……」
四車両電車しか停まれないホームを三分かけて歩く。遅々として進まない。乗換駅ゆえ、連絡が非常に不安になる。あんまりに暇なので、朝のメールに返信しようかと思う。しかしながら、相手は病人。起こしてしまっては申し訳ない、と断念し、目の前の小母様を観察する。なかなか奇怪な行動を取られる。
改札についたときには、駅員さんは事務室に引きあげている。右の人差し指と中指で定期を挟み、事務室に向けて通り過ぎる。この時間に駅員に会えないのか。当時08:09
否。遅延証明書はどこだ。
手ずから配るものじゃないのか……。
あった。事務室側改札に自動レシート式。……こんなところだけハイテクなのか。
乗り換えホームに着く。
「僕の目は可笑しくなってしまったんだろう。うん、屹度壊れたに違いない」
なぜだかいつも乗る電車が鎮座在していらっしゃる。しかも混んでいやしない。何故だ。
つまり僕は、遅延証明書を貰っておきながら、早歩きでいけば確実に、授業に間に合う電車に乗 る の か ……!!
立ち乗り。さりげなく、この線においてはかつてないことである。
始発駅の妙か、僕は一度も、この駅から次の乗換駅まで立ち続けたことはない。逆方面ならあるが。
致し方なしに、ハードカバー(自著)をテキストにした二限担当者を恨みつつ、吊革に手を伸ばす。
勿論、順調に乗り換える。
「ウフフ……ウフフフフ」
そろそろ笑い声が乾いてくる。握りしめた遅延証明書は既に皺だらけ。
しかし腹痛。やはり朝食がご飯と味噌汁、ついでにプリンというのはいけないか。
それとなく遅れて教室に着く。なぜなら、僕は「とうに使い切った体力を擬似的に付与するもの」を飲んでいた。アレもまた腹痛をもたらす。ご乗車前の服用はお奨めしない。
「すいません、電車が遅れて乗り換えがうまくいかなくて」
遅れたのはたった二分だが。
「あ、まだ大丈夫なんですね?」
「うん、まだ」
かなり人のいい講師が遠慮がちに言う。今日の出席は点呼でもカードでもなく、小テスト返却。
僕がついてから暫くして、返却が始まる。
設問は三、答えは六の小テスト持込可。しかして得点は「二十分の○○」一問三点×五+五=二十……
評価の二十パーセントだからって、先生。
宝塚とか、ワカツキさんについてとか、聞く。何故だ、何故傍らに君がいない。
「まさにバラ色の時代」
とか言う先生が可愛い。半ドンの語源の話にまで至る。
そんな「日本経済論」
またひとりからメールが届く。
「二限休むかも」
とあるが、ことマイナス面に関しての彼女の「かも」は確定の意だと思う。
「五限だけ来い」
と空瓶を捨てながら返す。落下音が、いつになくよく響く。
何故か、僕はプリントを四部ずついただく。
「君、生きてるか……?」
一切連絡がないヒトにメールを送ってみる。今現在返事がない。本当に生きているのだろうかと、不安になる。
一足す、一足す、もいっこは、三である、更に白沢の分を足す。四である。そこにいる人数分しかくれないので、わざわざ講師の前まで行って取る。
奇異の目で見るな。
縦書きの板書を左から右へ書くのを、どうにかしていただきたい。
「畜生、三頁しか使わなかった……」
濡らさぬように持って来たハードカバーを睨む。
否、君は悪くない。重すぎることは罪じゃない。それを毎回持って来いと言うことが罪なんだ。……聖書には殺意を抱き、賛美歌はそれほどでもないので、総ては感覚の問題であろうが。
しょぼん。
昼休み。一年生と部室に二人っきり。思考が昼間からアレな白沢とは違う感じなので、別に口説きあうこともない。五限までの四時間半、どうやって時間を潰すか切実に悩む。食事の味も覚えていない。
何故か炊けてなかったご飯の代わりに買ったアップルパイと、おかずと、クルミパンを詰め込んだ気がする。
つーか既に僕はやばい。熱も何もない筈だが、僕がやばいと感じたときはかなりやばい。しかしここまで居残ったのだ。僕は五限まで生き残り、高らかに奴らにプリントを示してやらねばならんのだ。
我を崇めよ、民草。
そんな想像をしながら、
「ウサギはさびしくなると暴れちゃうんだよ……?」
とか、部内落書き帳に書きこむ。
ふたつめのメールの相手が来る。
公共放送に五嶋龍が出ていたと知り、心底悔しく思う。彼の音はかなり好きだ。つーか、恨む。そんな奥様ドラマな時間帯に放送しないでくれ。
つつがなく五限を過ごし。雨の中置き去りにしたマイ愛車を回収。
帰宅。
「ふんっ」
ぎ。
「ほやっ」
ぎ。
「くっ」
ぎ。
……
……
「はいれ、にゃ――い……」
神様、僕のこと愛していないんですか。